SDS(Sunrise Data Science)基礎(※1) 「さっぽろ探究」準備講座が、旭丘高校数理データサイエンス科1年生80人を対象に7月13日3・4校時に同校で行われました。同科は2022年度より開設され、次世代社会を担う科学的教養を備えた数理データサイエンス人材の育成を目指しています。また、同探究はグループ毎に札幌市にかかわるテーマを設定し、データサイエンスの手法・知識を用いてオープンデータの収集・分析を行い、様々な特徴・傾向・課題を探り、ポスターにまとめて校内外で発表する探究的な活動です。昨年度は、校内発表やサイエンス・フェスタ2022(地下歩行空間)などでポスター発表をしました。
ジュニア プログラミング ワールド2022での発表
今回の準備講座は、8月から本格的に始まる同探究の導入部になります。 講師は札幌市立大学高橋尚人教授(AIT(※2) センター長)。ビッグデータ分析や知能情報学などを専門とされ、AI(人工知能)を活用した研究により現状の把握(見える化、可視化)、問題の明確化を目指しています。
※1オープンデータを題材に、情報収集・分析・考察・発表を通してデータサイエンスの基礎を学ぶ科目。 ※2 Advanced Intelligence Technologyの略(先端知能技術)
本日の授業テーマは「データサイエンスと街づくり」 同教授が現在札幌市と取り組んでいるEBPM(Evidence based Policy Making:証拠に基づく政策立案)についてお話しされました。これは、事例や経験に基づいて施策立案(エピソードベース)されていたものを、データで検証して施策立案(エビデンスベース)しようというものです。その共同研究の一つが「救急需要予測に基づく救急車の最適配置に関する基礎研究」です。つまり、本市の救急搬送人員の将来予測が可能なAIモデルを構築していくというものです。これは将来的に人口が減少するにもかかわらず高齢化等により救急搬送人員が増加するという課題に対応する研究です。
具体的には救急需要の実績データ、人口、高齢者人口、気温、積雪、曜日・祝祭日など救急搬送に関係するオープンデータを分析してAIモデルを構築します。分析には、ニューラルネットワークという人間の神経回路をモデルとしたアルゴリズム(計算方法)を用います。構築したモデルを用いた2006年から2021年の救急搬送人員の予測値は、コロナ期の2020・2021年を除き実績とほぼ合致しました。併せて2045年までの救急搬送人員の将来予測を行うと、2019年に約8万9000人だったものが増え続け、2030年ころが最大で14万人台に達する予測が出ました。これを受けさらに地域単位での救急需要予測をし、救急隊の配置など救急業務に関するリソースの適切な配分に生かし、手当てを受けるまでの時間の短縮化を図ることがこの研究の目標だそうです。
もう一つの研究事例は、本市の課題である雪対策のうち排雪費に着目したものです。同費は214億円(2021年度)にも上る雪対策予算の約5割を占めるものだからです。将来的な課題として少子高齢化による労働力不足から労賃が上昇し予算の増加が見込まれます。そこで雪対策予算の1/4以上の57億円を占める運搬排雪費(路肩に除雪した雪をダンプに積み、雪処理施設に運搬する費用)に着目。効率化を図ることにより運搬同費を抑えることを図りました。具体的には全市域で1日最大300か所にもなる排雪作業現場と90か所の雪処理施設とのマッチング最適化シミュレーションを行い、省人化・省力化を図ります。特に目指すものは排雪ダンプの総走行距離を減らし運搬同費を抑制することです。
最適化シミュレーションは、スマート・アクセス・ビークル・システム(SAVS、AIによるリアルタイムな配車計算を行うシステム)を用いました。これは、①配車要求発生、②全市の排雪ダンプの位置確認、③最も効率的な配車を計算・指示という手順で配車を最適化します。試みに排雪現場数が最も多かった(254か所)2021年1月27日を対象にシミュレーションを実施。結果として7,151㎞(16.6%)走行距離が短縮され、SUVSの実効性が実証されました。
質疑では、「データを集めるとき自分の欲しいデータが無いときはどうするのか」という質問には、「オープンデータから自分の目的に合うものを探すしかありません。まずは、研究にテーマに沿ったデータは何かを確認します。次に札幌市ICT活用プラットフォーム DATA-SMART CITY SAPPOROなどのデータサイトにアクセスして必要なデータを検索してください」という回答でした。
高橋教授から生徒に向けた質問「札幌の救急業務、雪対策にはどのような課題があり、その課題にはどのような解決策があると思いますか」への回答は。救急業務では、「119番にかける基準が甘いので明確化する、救急搬送は有料化する」など、雪対策では、「排雪しやすい道路整備、排雪ダンプの自動運転化、各家庭でできることはやる」などがあげられました。
まとめとして高橋教授は、同探究のヒントとして研究のプロセスを、①大まかなテーマ設定、②現状の可視化・課題の抽出、③具体的な研究内容・研究の方法の設定、④シミュレーション準備、⑤シミュレーション実施の順で行うことの大切さを説きました。 なかでも「データはその重要性から『21世紀の石油』と言われている」という言葉が印象的でした。AIなどを活用して数理データサイエンス科の生徒さんが活躍して、将来有望なデータの鉱床を開発し、採掘する日がやってくることを確信した授業でした。