市立高校学校間連携事業 2022グローバルリーダー育成オータムキャンプが9月17日〜19日までの2泊3日の日程で、産業技術教育訓練センター(札幌市中央区)で行われました。
【このキャンプの始まりについて】 2014年開成高校のベトナム研修の時、現地のJICA職員豊田雅朝氏が引率者の澤谷明憲先生に提案した、ご自身が小山朝英氏と共に準備していた企画から始まっています。2015年、同研修で両氏が再会し、このプロフラムの実施を決意、同年、開成中等教育学校スタートを機にSGH(※)の企画の1つとして第1回目のキャンプを実施しました。2020年からは、市立高校学校間連携事業として他の学校からの希望者も参加できる形になりました。基本的に2泊3日で、講師の方々や引卒の先生方と一緒に、朝から夜まで様々なプログラムを実施しています。新型コロナ感染症の影響で中止した昨年度を除き、毎年行われており、今年で7回目を迎えました。 (※)SGH:2014年度から始まった文部科学省の事業、「スーパーグローバルハイスクール」のこと。その趣旨には「高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して,生徒の社会課題に対する関心と深い教養,コミュニケーション能力,問題解決力等の国際的素養を身に付け,もって,将来,国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることとする。」とあります。 【キャンプのねらい】 日本と世界、技術革新と国際協力について学び、対話型のレクチャーや議論を通して「世界で活躍するために必要な教養や創造力」を身につけることと栞に記載されています。 【参加者】大通高校から4名、開成中等教育学校から7名、計11名の生徒が参加しました。 【参加費】23,000円
研修の目的は以下の2つです。 1 議論の練習 (個人レベルの取り組み、複数の意見が出て議論が展開するときの取り組み、複数の意見が出て議論が展開していくときの取り組みに段階を踏みながらの練習です) 2 教養を深める 講師自身が社会人になった後に、「もっと勉強して、考えておく時間があればよかった」と痛感したテーマや、仕事の面で直面したテーマを中心に組み立てられています。
【講師チーム】
豊田雅朝(とよだ まさとも)さん:J I C A職員(現在ジンバブエ勤務、今回はオンラインで参加)(写真中央) 小山朝英(おやま ともひで)さん:株式会社世界市場取締役COO(最高責任者)元JICA職員(向かって左) 佐野悠一郎(さの ゆういちろう)さん:Beyond Next Ventures勤務。元JICA職員(向かって右) 町田英之(まちだ えいじ)さん:公認会計士・税理士。元JICA職員(向かって左から2番目 藤田恵理(ふじた えり)さん:JICA職員(企画部 経営戦略策定担当)
【担当教員】小泉泰之(こいずみやすゆき)教頭、澤谷明憲(さわやあきのり)先生、三上全(みかみあきら)先生
【事前に出されていた2つの宿題】 ①北海道の「核のゴミ問題」は今年11月に文献調査が終わり、次のプロセスに進むかの判断が行われます。あなたは、核のゴミの処理場の誘致について賛成か、反対か?推進派(寿都町と神恵内村)と反対派(北海道)のそれぞれの考え方と根拠となるデータについて調べてください。 ②毎日、新聞を読んでください・ニュースを見てください
【実際に行われたプログラム表(日程順)】
(青字:議論の練習プログラム、赤字:教養を深めるプログラム)
食事と就寝時間以外は全て研修です。3日間で実質22時間を超える研修でした。もしかしたら、夢の中でも研修していたかもしれませんね。
<オープニング> 三上先生の司会で始まりました。澤谷先生がこのプログラムのきっかけを紹介、「熱い講師陣と共に朝から晩までの研修となります!」と宣言しました。続いて、ジンバブエの豊田さんが講師を代表としてのキャンプの趣旨を説明、次のメッセージを送りました。「このキャンプでは普段は体験できないことを体験できるので今後の力になります。リラックスして、前向きな気持ちで、勇気を持って臨んでください。人前で意見を言うのは不慣れな面もあるかもしれませんが、これからの世の中では人に自分の意見を言えることはとても大切なスキルです。恥ずかしいと思うこともあるかもしれないけれど、勇気を持つことが大切です。他の講師の方々に意見をぶつけてみてください。アドバイスをいただけるだろうと思います。私自身はオンラインで全てのプログラムに参加しているので、質問があれば聞いてください。」
その後、他の4名の講師からの自己紹介。「生徒の皆さんと一緒に考え、学びたい」という言葉が印象に残りました。参加生徒の自己紹介の後、アイスブレークとしてグループ内で、お互いのネームプレート作りをしました。名前を聞き合って、何色が良いかなど、会話をしながらネームプレートを作りました。
いよいよ講義の始まりです。ここからは目的別に内容を紹介します。
<議論の練習プログラム> 1日目午前・午後、2日目午前・午後・夜、3日目午前 講義担当:小山さん 講義1「意見の持ち方と議論の仕方」 最初にキャンプの目的の確認、キャンプ中は積極的に発言をしてほしい、参加者から学ぼうという気持ちで参加すること、また、キャンプ終了後はここでの学びや気づきを日常的に具体的な行動につなげていくことの期待感を述べた後、議論する目的の理解、伝わる意見の持ち方の理解、建設的な議論の方法について順に講義が進みました。 議論する目的は意見を出し合って、より良い考えや理解を得ることであり、ケンカ、口論や意見の押し付けにならないことが重要であること、事前学習の核のゴミの処分場の誘致をテーマに、文献調査は11月に終了であるが、今後、誰がどういう主張をして、書く論点がどのようになっていくのかに注目してみてくださいとのメッセージで、講義1を終了。
意見出しゲーム① テーマ「熊は積極的に駆除すべきか?」 講義の5分後、場所を移して、全体で輪になって座り開始。他の講師も加わりました。初めての意見の発表の場で、やや声が小さく遠慮がちな感じでしたが、講師の方からの言葉もあり、だんだん発表に慣れていく様子でした。
講義2「意見の持ち方/建設的な議論の方法」 「伝わる(説得力のある)意見」と「伝わらない意見」の違いは何か?簡単な例を挙げて、どれが説得力があると感じるかと尋ねながら、「論理的である」とは、主張(Claim)・論拠(Warrant)・データ(Data)の3要素が的確に積み重ねられていることですと講義し、さらに具体的な例を挙げながら、論理的であるかの判断の練習をしました。 また、視点や立場が異なると、論拠やそれをサポートするデータが異なることがあり、自分の意見は特定の立場や視点に立ったものであることを理解し、世界を知る・教養を高めるとは、自分以外の立場・視点をよりよく理解することであることを理解してほしいと説明されました。
意見出しゲーム② テーマ「日本は核兵器を持つべきだ」「学校の授業は全てインターネット配信にして登校は任意にすべきだ」 前回同様、輪になり講師も参加して自分の意見を述べました。傾聴の姿勢やスマホを片手に、ネットで、データを検索する姿が出てきました。 意見出しゲーム③ テーマ「コロナ関連の規制は全て撤廃し、普通の風邪として扱うべきだ」について 意見出しゲーム④ イギリスからオンラインで過去の参加者との意見交流の予定が通信できず、急遽意見出しゲームに変更。「国葬」についてをテーマにした。 意見出しゲーム(番外編)質問会の後の時間を利用して豊田さんも参加して行われました。「札幌オリンピックの招致活動は中止すべきだ」について意見を出し合った。 意見出しゲーム⑤(最終回) テーマ①「日本は外国人労働者の受け入れを増やすべきだ」について まず賛成・反対の意見を出し合いました。ホワイトボードにまとめていく役目に立候補する生徒が出て、みんなの意見を書きながら賛成・反対の数を確認したり、それを一つの意見にまとめることを試みました。途中で輪に入っていた講師から視点の異なる意見が出され、議論の流れが修正されたりしていました。3日目、急に発言が盛んになりました。 テーマ②「日本は原子力発電を推進すべきだ」について 論点として、環境、リスク(健康、風評)、経済、時間、発電量などが挙げられ、意見交換から一つの意見にまとめる方向で熱が入り、最後には、賛成派も反対派もデータや論拠をはっきりさせようと努力する姿勢が見られ、大いに盛り上がりました。
<教養を深めるプログラム> 1日目午前・午後・夜、2日目午前・午後、3日目午前 講義担当:全員が担当
プログラム① 「ウクライナ侵攻から覗く国際社会と日本」 担当:前半藤田さん、後半佐野さん 前半:ウクライナ侵攻の背景にある各国の関係性を理解し、途上国の置かれた立場を理解することを狙いに定めて説明していただきました。もしもモンゴルの国連大使だったらロシアのウクライナシ侵攻に対する非難決議に対してどのように対応しますか?理由とともにグループ討論、賛成・反対・棄権を選択し、実際の国連の結果を見ました。 後半:ゼレンスキー大統領と近衛文麿首相のリーダーシップを比較しながら、主体的に自分の意見を持つことの大切さを理解することを目指した講義でした。ゼレンスキー大統領だったら?近衛首相だったら?と仮定し、理由も添えて自分の意見を述べようと生徒の手が上がり始めました。
プログラム② 「株式投資を体験してみる」 担当:町田さん 株式投資を通じて、生徒が大人になるまでに関心を持ってもらいたい経済的な話しを主に講義してくださり、株価といった経済・金融的事象が、政治、テクノロジー、社会の価値観といったものと相互に影響していること、物事については多面的な視点からとらえることが大切であることが伝わりました。
映画鑑賞 「十二人の怒れる男(※)」を鑑賞 (※12 Angry Men 1957 アメリカ。父親殺しの罪に問われた少年の裁判で、陪審員が評決に達するまで一室で議論する様子を描く。法廷に提出された証拠や証言は被告人である少年に圧倒的に不利なものであり、陪審員の大半は少年の有罪を確信していた。全陪審員一致で有罪になると思われたところ、ただ一人、陪審員8番だけが少年の無罪を主張する。彼は他の陪審員たちに、固定観念に囚われずに証拠の疑わしい点を一つ一つ再検証することを要求する。陪審員8番による疑問の喚起と熱意によって、当初は少年の有罪を信じきっていた陪審員たちの心にも徐々に変化が訪れる。Wikipediaより)
プログラム③ 「講師の仕事」 担当:全員(モデレーター藤田さん) 講師それぞれの小さな頃の夢や、学生時代を振り返りながら、現在取り組んでいるお仕事について、お話ししていただきました。
映画の解説 担当:小山さん 前夜鑑賞したの映画の流れ、12人の陪審員の主張、一人だけが無罪を主張し、長時間論議を進め、他のメンバーの主張の変化を解説し、確認をしました。
プログラム④ 「アフリカから何が見えるか」 担当:豊田さん(オンライン) このプログラムの狙いの説明の後、現在働いているアフリカ・ジンバブエでの仕事や国の現況を伝えていただき、そこから見える日本や世界の課題や可能性を考えさせる内容でした。アフリカが今後世界の中で存在感を増してくるであろうとの示唆がありました。議論としては自国ファースト主義の傾向が強まる世界の今後の在り方や日本の立場をを話し合い、オンラインで生徒の意見発表したり、講師からのコメントやメッセージをいただきました。
プログラム⑤ 「スタートアップが世界を変える」 担当:佐野さん スタートアップのアイデアを考えて未来を楽しく想像しながら、起業家のマインド(自分の意見を持つ、他人と違ってよい、たくさん失敗してよい)を持とうと呼びかける講義でした。それぞれのチームが新しい事業のプランを出し合いました。
プログラム⑥ 「開発援助のあり方」 担当:藤田さん モンゴルでの経験などを通してJICA職員の仕事を伝えた後、「ODAの予算は増やすべきか、減らすべきか」について、外務省役人と財務省役人のグループに分かれ議論して意見をまとめた。ODAの利点と課題に気づくかせる内容でした。最後に途上国への援助が自国の利益にもつながるという国際益の考え方を教えてくれました。
プログラム⑦ 「リーダーシップとは」をテーマに、映画の登場人物の役割を個々に振り返りながら、リーダーシップをとっていた人物について確認しました。積極的に意見を述べたり進めようとしたりするだけではなく、正しいと思う意見を支えることもリーダーシップといえることを学びました。
<なんでも質問会> 人生に必要なものとは?自分の事は好きか?といった哲学的な質問や、普段の仕事で一番大切にしていること、仕事で一番大変だったことといった仕事に関する質問、その他には、高校時代にやっておけばよかったこと、留学や社会問題に関する質問など、様々な質問があり、全ての質問に対し、各講師が回答してくれました。
<個別フィードバック(最終日)> 担当:全員 最終日の最初のプログラム。前夜に講師チームが参加生徒について感想を述べ合い、それぞれ担当者を割り当てて、一人ひとりに振り返りとこれからのアドバイスをしてくれました。生徒の参加の動機や意識が異なるので、個々にアドバイスした方が良いと考えていただいたそうです。実に細かい配慮です。
<リフレクション・ラップアップ> 毎日、夜に生徒はそれぞれの振り返り用紙に記載してきましたが、最後に、生徒それぞれがこのキャンプの全体の振り返りと今後の自分について記入し、提出しました。
<クロージング> 輪になって、講師から一言ずつお話を聞いて、写真を取り合って、ラインで友達になったりして終了!講師陣とグータッチでさようなら。講師陣は東京へお帰りになりました。
一生忘れられない研修となったようです。
生徒や講師の感想は次の「2022グローバルリーダー育成オータムキャンプ開催!〜感想編〜に掲載しています。